2016年8月の代表メッセージ

■□ 『生徒指導支援資料6「いじめに取り組む」』に学ぶ □■

暑い8月が始まります。

7月21日、国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターは、『生徒指導支援資料6「いじめに取り組む」』として小冊子2冊を発表しました。
それぞれ
(1)「いじめ追跡調査2013-2015」
(2)「どのように策定・実施したら、『学校いじめ防止基本方針』が実効性のあるものになるのか?」
となっており、サイトからのダウンロードもできます。

(1)の「いじめ追跡調査2013-2015」の冊子は、平成25年から平成27年までの3年間に渡って、小学4年生から中学3年生までの子供たちを追跡調査した結果をまとめたもので、3年に一度発表されています。

特に6年間に渡って、その子たちの変化が追跡できる調査は日本ではほとんどないのではないかと思います。
その意味でも大変、重要な調査だと思います。
この調査は大都市近郊のある地方都市の児童生徒約4800人を対象としています。
重要なデータですから、さらに規模を拡大する必要があります。
観測点も増やすなど大きく展開すれば、地域性についても実態が明確になり、日本のいじめ問題の本当の姿が見えるはずです。
この点、国立教育政策研究所に期待したいものです。

さて、今回は、(2)の「どのように策定・実施したら、『学校いじめ防止基本方針』が実効性のあるものになるのか?」を取り上げてみたいと思います。
「いじめ防止対策推進法」の施行により、全国の学校では「いじめ防止基本方針」を策定することが義務付けられました。
そこで、中部地方の小学校2校、中学1校から成る中学校区から2校区と連携して、「基本方針」を策定、実施を行い、その結果、いじめ認知件数がどのように変化したかを調査しています。

結論としては、「2年間の取組によって成果をあげた」となっています。
具体的には、被害者の割合としても、男子の「いじめられなかった」が、2013年11月に70.3%だったものが2015年11月には75.4%に、女子は、67.4%が71.3%となり、いじめを受けなかった生徒が増えています。
加害経験の割合としても、男子の「いじめなかった」が69.8%から71.9%に、女子は64.5%が76.0%となっており、特に女子においては顕著にいじめをしなかった子が増えています。

「いじめが減った」理由として次の点が読み取れます。
1.全教職員が取り組んだ。
2.点検と見直しを学期ごとに繰り返した。
3.全教職員が結果を共有し、働きかけるよう研修に取り組んだ。
4.年3回のアンケートによる実態の把握の実施。

私たちのところに来る相談件数を見ても、学校が「いじめ防止基本方針」の策定に取り組んでいる期間には、いじめ相談が明らかに減少していました。
ところが、基本方針の策定が終わったとたんに、いじめ相談が増え、いじめ自殺のニュースも増えてしまいました。

今回の対象となった中学校区では、国立教育政策研究所とのタイアップ研究であることから、基本方針が何度も見直され、その方針の実施についても何度もフィードバックが掛けられています。
つまり、全教員の意識が「いじめ問題」から離れることがなかったということが大きなポイントだったのではないかと思います。
「いじめ防止基本方針」の内容よりも、実際には、教員の意識が持続していたことが「いじめが減った」という結果となったというのが正直なところではないでしょうか。

実は、このところに国立教育政策研究所の狙いがあったようにみえます。
冊子には「期待したのは教職員の変容」という見出しがあります。
まさに狙い通りです。
そしてこれが「サイクルの継続→子供の変化」という見出しにつながっていきます。

本冊子の結論部分として以下のように述べられています。
「いじめについて直接に何かの指導を行うというのではなく、学校が本来行うべき教育がきちんとなされているのか、それは子供にも伝わっているのかを定期的に確認しつつ、中学校区の全職員が気持ちを揃えて日々の教育を充実させた結果、いじめは減っていきました。」

結局、全教職員が問題意識をもって取り組めば、いじめは減らせるということです。
しかも、それはいじめへの取組よりも、子供たちとどのように向き合うのか、子供たちにとっていかに良い授業をするのかという教師にとっての毎日の姿勢によって成し遂げられるということを示しています。
言い古された言葉かもしれませんが、「教師が変われば子供が変わる」という言葉は真実であると証明したのがこの冊子と言えます。
先生方には、ぜひとも目を通して今後の参考にしていただきたいと思います。

また文部科学省は、国立教育政策研究所の研究成果を単に研究として終わらせないでいただきたいのです。
国立教育政策研究所のこの成果を全国に展開し、全国の学校を指導し、全国でいじめが減ったという結果が出るまでやり続けるべきです。
そこまでしてはじめてこの研究が現実世界で意味を持つものとなると思います。

いじめから子供を守ろう ネットワーク

代表 井澤 一明