■池田先生の例
いじめを防止するための「愛の反省」方法の紹介
私は、子どもたちからみれば、悪いことはすれば叱られる「厳しい先生」です。単なる「優しい先生」では、子どもたちを教育することはできないと思っています。普通のけんかは、注意をすれば直ります。
お互いに自分の悪かった部分に気付けば、相手に対し、謝ることができます。
けんかした子どもの話を聞く場合は、けんかのいきさつと、その時に思ったこと、けんかにならないようにするには、どんな言動をすればよかったかを考えさせるようにしています。
しかしながら、たびたびけんかを繰り返すときは、お互いに「自分よりも相手が悪い」と思っているので、注意だけでは効果がありません。こんな時にこそ効果を発揮する方法があります。それが、「愛の反省」と読んでいる方法です。
自分が生まれてから幼稚園まで、小学校1年から現在までの大まかに2つに分け、周りからしてもらったこと、自分がしてあげたことを箇条書きで書かせます。(両親、先生、友達に対して)
お母さんから | ||
してもらったこと | してあげたこと | |
生まれてから、幼稚園を卒業するまで | ||
小学1年から今日まで |
授業妨害する子や、乱暴な子にも行うと大変に効果があります。個別に書かせたことを参考にしながら、今の気持ちを聞いていきます。すると、たいてい子どもたちは、してあげたことよりも、してもらったことの方が多いという事実に気付きます。
いかに自分が大切に育てられたか、多くの人にお世話になっているか、愛されているかと気付きます。それ対して、自分は何もしていないことにも気付くことができます。
子どもたちと話していく過程で、子どもたちは、自分のやるべきことは人と争うことや、けんか、迷惑をかけることではなく、周りの人と協調していく中で自分が成長していくことである、と気付いていきます。けんか相手である子にも両親がいて、その子を育んでいる存在があることに気付きます。
この「愛の反省」によって、ガラッと態度が一変するというわけではありませんが、その後、他の子どもたちと調和し、落ち着いて生活するようになります。
この実践方法が皆様のお役に立てれば幸いです。
■後藤先生の例
いじめは絶対許さない
いじめを起こさないクラスは、教師の決意と朝礼時間の活用から
いじめが起きている、いじめ自殺が起きている。教師の責任です。誰の責任でもありません。私たち教師の責任です。
わたしが小学6年の担任をしたときのことを事例に日頃の実践方法をご紹介いたします。
新しい学校に赴任して、六年の担任になりました。始業式の日、初めてあった子どもたちに対して、「先生は、いじめを許さない教師だ。絶対にいじめは許さない」、「いじめを見つけたら叱る」と宣言しました。
担任の教師に、許される時間は、毎日10分の朝礼の時間です。この時間をいかに有効に使うかで勝負が決まると考えています。私がとっている方法は、「子どものためのルールブック」という本を、一日一分、一つのコンテンツを読みます。その後、1分で、それについて解説します。これを毎日繰り返しています。
その結果、5月の家庭訪問の時には、お母さん方から「子どもが変わった。先生、ありがとうございます」とたくさんのお礼の言葉をいただきました。
荒れていた子供たちが変わったのです。五年生の時には、落ち着きのない子どもたちだったと聞いておりましたが、今は、どこに出しても恥ずかしくない、しっかりした六年生です。
結局、教師の姿勢で子どもたちは変わるのです。教師が授業研究を積み重ね、毎日毎日努力してゆくことで子供たちを育て教育していくことができるのです。我々、教師が未来を背負っているのだと思っています。
■伏見先生の例
いじめ指導の実践方法
中学で指導部長をしております。いじめが起きた場合の対処は、このようにしています。長年の経験から得たものですが、「効果大」です。
(1)必ず、一人の教員ではなくチームで対応する。
現代のいじめに対して、担任1人に任せるのは無理です。
(2)「この事態を心配している人から報告があった」
本人、親、友人など報告者が誰であったとしても、加害者には、「この事態を心配している人から報告があった」で統一する。「チクった」と言って報復したり、加害者やその親が「誰がそんなこと言った」と言いがかりをつけたりということを防止するためにも教員側の対応を統一しておくことは大事だと思っています。
(3)同時に呼び出し、15分の事情聴取をする。
複数の教員が同時に、別の部屋で1対1で対応する。この聞き取りで、各加害者の発言には矛盾が生じます。
(4)加害者の発言を検討し、いじめ事実を確定する。
15分の聞き取りの後、部屋に加害者を残して、教員が再集合し、情報交換・矛盾点の分析を行う。それを基に再度、15分の聞き取りを行う。「聞き取り」を繰り返し、事実を確定してゆく。
(5)加害者に「いじめの事実」を認定させる。
いじめ事実の全体像がつかめたところで、加害者に「いじめ」を認めさせる。
しかし、これですませると、報復や、クラスでのしこりがのこるで、ここからの詰めが重要です。
(6)加害者に、反省の涙を流させる。
中学生ともなると、叱ったり脅すだけでは、泣くまで反省することはありません。
反省する、泣くところまで行くには、秘訣があります。
それは、加害者ががんばってきた、つまり、部活動や体育祭・文化祭などを思い出させ、評価し、輝く未来を展開してみせ、教師も期待していたことを伝える。その上で、「なのにお前は、今、何をやってるんだ」、「がんばっていたおまえはどこに行った?」と話しかける。そこに反省の心が生まれます。泣くところまで行くと、報復とか、再発するということはありません。
(7)謝罪
いじめの事実を認め、泣くまで反省した加害者は、通常、すぐに被害者に謝りたくなるのですが、私たちは、すぐ謝らせることはしません。すぐに謝るのはすっきりはしますが浅いままになってしまうからです。加害者に、考える時間を与えることでより深い反省に導きます。少なくとも一週間の時間を置いてから被害者に対して「謝る」ことを許可します。
被害者にとっても、加害者から謝ってもらうことは傷ついた心を癒す大切な機会です。
(8)保護者を交えて、いじめの事実を報告する。
保護者に知っていただくことは、教師が家庭、地域と連携して子どもたちを教育していく上でとても重要です。また、さまざまな事柄を隠すのではなく、正しく報告するとは、子どもを預かっている学校の責任でもあります。
■義家先生の例
(シンポジウムでご講演いただいた内容からまとめてみました)
ヤンキー先生こと、義家弘介先生は、北星学園余市高校で「社会」の教師を6年間つとめた。不登校と不良が集まってくる特別な高校でもあったという。いじめが起きないわけがない環境の中で、指導部長を務められた。
○いじめの予防と発見のポイント 孤立している子を発見せよ。
いじめは教師が見ていないところで起きる。まずは、休み時間。教師は、学生と同じトイレを使うべきだと主張される。その過程で、クラスで孤立する生徒は見つかる。
さらに体育の時間。私は、努力して体育を子どもたちと一緒にうけた。ペアでおこなう体操や、チームでの運動の様子を見れば、一発で浮いている子が見つかる。
○加害生徒には徹底した指導を
いじめは絶対に許さない。いじめがあったら授業は自習にしてもよい。加害生徒と10時間でも徹夜してでも付き合う覚悟で臨む。最初は、当然「知らない。勘違いだ」などとしらを切りますよ。しかし、このくらい徹底して話せば、泣き出します。
終わった後、保護者に電話して「今日は落ち込んでいますから、何も聞かずに寝かせてください」これがポイントです。
○謝罪
加害生徒には翌日、クラス全員の前で謝罪させる。やり込めるためではない。
○傍観者を当事者にしていじめのないクラスづくりをする。
「こいつも悪かった。だけどな、見て見ぬふりしたお前たちはもっと悪い。」
「勇気を振り絞って謝ったこいつよりも、みんなの方がひきょう者だ」。
傍観者に対して、見て見ぬふりすることもいじめへの加担なんだと気付かせる。
○チクリと言われたり、報復されることへの防御策。
生徒は、「注意したり、先生に報告すると自分もいじめられる」と考えるもの。
そこで、クラス全員を五人ごとにグループ化して面談する。その中で、5人の仲間を作るよう促す。これも、2人や3人でなく、5人。5人でないと力を発揮しない。
その集団がクラスに三つもできればいじめを抑止する力になる。いじめが起きても初期の段階で教師に報告があがってくるようになる。
○家庭の中で
教師も頑張るがそれだけでは不十分である。学校に行きたくない子供は、必ず行きたくない顔をしている。朝は子供の心の声を聞く時間だ。「朝」の字を分解すると、「十月十日」になる。赤ちゃんが母親の胎内にいる期間。大切な朝を過ごしてほしい。
「かつての日本には、弱いものいじめは、卑怯だという文化があった。卑怯な人間は軽蔑された。その文化が変化した。利益追求主義の社会の中で、恥という文化を失ってしまった。歴史が連綿と大切にしてきたものを取り戻したい。
■学校全体での取り組み例(実践編)
三重県白子高校 埴輪スタイル禁止・ミニスカート禁止令
http://www.pref.mie.jp/KYOKAI/HP/keihin/kaikakuhousin/H18/18hyoukahyou/190SHIROKO.pdf
長野県教育委員会
校内暴力をなくすために ―徹底した暴力否定と生徒理解を―
http://www.pref.nagano.lg.jp/kyoiku/kyoiku/kyoshokuin/shiryo/shido/shokikan/konaiboryoku.html
熊本県立甲佐高等学校 プログレッシブ・デシプリン生徒指導
http://www.higo.ed.jp/sh/kousash/H19purogure.pdf
新潟県立正徳館高等学校 ゼロトレランスとキャリア教育の新潟県立正徳館高等学校
http://www.shotokukan-h.nein.ed.jp/
岡山学芸館高等学校 ゼロ・トレランス方式の生徒指導
http://www.gakugeikan.ed.jp/method.php?jpml=method_zero
荒れた学校を再生するマニュアル 践に基づく 毅然とした指導
山本 修司編集(教育開発研究所 価格\2,310)
http://mamoro.blog86.fc2.com/blog-entry-340.html
■愛知県立豊明高校(段階的な規律指導を実践する)
【教育】日本流「ゼロトレ」じわり浸透 進学でも実績向上 2008.12.3 08:01
段階的な規律指導を実践する愛知県立豊明高校=愛知県豊明市
■生徒指導に明確なルール 違反した生徒に罰則科す
生徒指導で明確なルールを学校が示し、違反した生徒に罰則を科すことで規律を高める「ゼロトレランス」(直訳は「非寛容」)。荒れた学校への処方箋(せん)として1990年代の米国で浸透したこの指導理念を、文部科学省が日本でも導入する考えを示したのは平成18年5月だった。2年以上がたち、同理念を教科指導に取り入れて進学実績を伸ばす学校が現れるなど日本流の広がりをみせているようだ。(鵜野光博)
埼玉県入間市の私立狭山ケ丘高校では、期末試験で落第点を取った生徒に対し、追試験で救済することを4年前からやめた。
「きっかけの一つはゼロトレランス理念だった」と小川義男校長は話す。平成12年に同理念を日本に紹介した元愛知県立高校長の加藤十八氏の著作などに影響を受けたという。
同校ではそれまで、生徒が合格点を取れるまで追試験を繰り返した。「何度も追試験に落ちる生徒には、『結局は進級できる』という甘えがあった」と小川校長。追試験廃止後は、5科目以上で落第点を取れば無条件で留年とする一方、4科目までなら、科目ごとに膨大な量の課題を与え、提出できた生徒には進級を認めている。
「甘えは認めないが、課題をこなした生徒には必ず学力がつく。毅然(きぜん)とした態度で指導することは、子供の可能性を信じてやることでもある」(小川校長)。
ゼロトレランスに詳しい国立教育政策研究所の藤平敦総括研究官は、「荒れた学校だけでなく、狭山ケ丘高のように進学校での教科指導や、キャリア教育でもゼロトレランス的な指導を行う学校が増えている」と話す。
「当初は生徒への厳罰や排除といった側面が強調されたが、新学習指導要領で道徳が全教科で教えられることもあり、ゼロトレランスという言葉をあえて使わなくとも、事前にルールを提示してそれを守らせる教育は、小中高のすべてで広がっている」
前出の加藤氏は、校長時代、「管理教育」の実践者として批判の矢面に立ったこともあった。
加藤氏が初代校長を務めた愛知県立豊明高校(豊明市)では現在、午前8時半を過ぎて登校した生徒には通称「遅刻カード」を渡し、1回目は指導部長の口頭注意、2回目は反省文、3回目は学年主任の指導と反省文-と指導を強め、5回目は保護者を呼ぶ。
同校の都築仁美教頭は、「段階的に指導を行うことを事前に明示することで、保護者も子供の行動と指導との関係が理解できるようになる」とし、「豊明高は落ち着いているが、前任校では、万引や喫煙といった特別指導が年間200件に及んだ。しかし、教師側が場当たり的な対応をせず、段階的指導をきちっと行ったところ、3年後に4件にまで減った」と話す。
加藤氏は「校内暴力などで荒れた学校に対し、90年代の米国がゼロトレランスで立て直したのとは対照的に、同じ時期に文部省(当時)は、管理教育を廃止して校則を緩めるという反対のことを現場に求めていた」と振り返る。
「規則ではなく信頼関係で指導せよ、生徒と同じ目線に立てという教育論は、実際の教育現場では教師から指導の自由を奪い、士気の低下も招いた」と加藤氏。20年近くたった平成18年に、ゼロトレランスを肯定した教育行政のちぐはぐさを指摘する。
藤平研究官は「生徒の話を聞くことと、毅然とした指導とのバランスが必要」とし、「大切なことは、教師が『寛容』の名の下にあいまいな指導をしないことだ」と話している。(産経ニュース)
■学校全体での取り組み(理論編)
文部科学省国立教育政策研究所「生徒指導体制の在り方についての調査研究」報告書
http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/seito/seitohoukoku.pdf